現地に住むものとして友人が日本から来てくれるのは嬉しいのだが困ることもいくつかある。
その中で最も注意を払わないといけないのが夜の案内である。
日本からの友人は現地に住んでいる友人が夢のようなハーレムを実現してくれるのではないかと異常に胸を膨らませタイに入国する。
アラビアの千夜一夜物語ではないが、日本では味わったことのない美人に取り囲まれモテモテになり自分が貴公子にもなった気分に初めからなっている。
そんなことはあるはずがない。お金は日本よりもかからないとはいえ相手の女性達は全てお金目当てなのに男は舞い上がってしまって分からない。
という私もこういう経験を何度もしている。
つい最近、4月のソンクランも終わり日本のゴールデンウイークの前の閑散期に長年の旅行社の友人がパタヤにやってきた。
私に電話などをくれずに自分で勝手に遊んでくれれば良い子なのに。
おまけに今回は彼の仕事仲間の友人が3人付いている。
仕事でシンガポール、マレーシア、ベトナムと回って最後にタイに来た。
タイが最後ということは仕事をパタヤでやるつもりはなく、要するに息抜きをパタヤでやろうと思っているのだ。
着く早々、今夜は遊ぶぞ!と意気軒昂だ。
今夜は日本語の分かる若くて美人の女の子を是非紹介してくれよ!
先輩!日本語が分かるという女の子がいる店は日本人専用のカラオケしかいませんぜ!
日本人専用のカラオケの女は概して心が悪く、きっと朝にチップの問題が起こりますよ。
それに若くは作っているが全員30歳過ぎです。
たまたま若い子がいても、その子は日本語が殆どわかりません。
何も日本語が分からない女の子に大枚を叩いて買うことはないでしょう。
バービアーの女の子の方がよっぽど純情で気持ちが良い子が多いですよ。
いや、今夜は日本カラオケに行くことに決めたんだ。
そうですか、そういうことなら結構です。行きましょう。
そんなやりとりをしている間、どこのカラオケが良いかなと考える。
一番高い店は「蘭」だ、そこはババアばかりで先輩の要望には答えられそうにない。
置屋的なカラオケもある。スージーとガーデンだ。
でもここの女は30過ぎのベテランホステスばかりで店のマークアップが大きい為にホステスの実入りが少なく巧みな日本語駆使して朝方最低5000円、あわよくば10000円のチップをせしめようとする。
断れば良いのだか気持ちの優しい日本人には断れない。
そしてそのツケを翌朝、その店に連れていった私に回してくる。
カラオケに付き合えば私だって2時間もいれば1000バーツの飲み代を取られる。
付き合いだからと言えばそれまでだが、本来私にはその友人とは付き合いたくはないしそのまた友人なんてのは全く私とは関係がない。
日本人の遊び人の多くは自己責任の原則が分かっていない。
そもそも女遊びは閨の中でどんなことが行われて、それにどんな報酬を支払うことになったのか外部の人間が知る由もない。
だからこの置屋的なカラオケはパスしなければならない。
残るは2ヶ所だ。
シェリーと二輪草。
シェリーは値段はほどほどだが女性が少ない。
日本語が話せるホステスはいない。
盛り上がりに欠ける。
とすれば二輪草しか残らない。
でもここも経営がとても荒っぽく、外人相手のショートプレイやホステスがオール
ナイトの約束でお金を払っても一発終わればすぐに帰るというホステスもかなりいる。
でも比較的数、質が揃っているのはここだろう。
それに今回は1泊だからパっと花火が打ちあがって終わるだろうと期待した。
ところがどうだろう。
翌朝、空港に行く車を見送りにホテルに行くと3人のうち2人が不機嫌な顔をしている。
どうしたのかと尋ねると、帰り際にまだお金を貰っていないからと言って1万円取られて朝の1時に女は帰ってしまったと言う。
先輩は顔を潰されたので私に必死にしがみついてくる。
この女達は一体何だ、女代の二重取りをして挙句の果てにショートで帰るとは。
血相を変えて私にクレイムを申し立てる。
おいおい先輩、私は仕事でやっているのではありませんよ。
一銭も儲けていないばかりか、自分の飲み代を自腹を切っているんですよ。
付き合いたくもないのに車を無料で提供して店からホテルまで送迎もやってあげているんじゃないですか。
どうして私が怒られなければいけないんですか?
いい加減にして下さいよ!
3人には聞かれないように少し離れたところで逆切れしてしまった。
各国にある日本大使館員が日本から政治家や大物経済界人が来て接待に回されると聞いているが、彼らは逆切れすることを許されない。
さぞかしストレスが溜まるだろうと想像する。
頼むからホステスに取られた2万円(一人一万円)を取り返してくれよ。
俺の顔が立たないから。
冗談はやめてよ、先輩の顔が立つか立たないか知らないけど、そんな格好の悪い役回りはご免蒙りたい。
といえども先輩の御願いとあらば一応はお店に掛け合わなければ。
翌夜、二輪草に殴りこむ。
一体どうしてくれるんだ! 大事なお客さんを怒らせたりしてお金をダブルで取るなんて。
殴りこんだ時には昨日のホステスのうち一人はいたが(問題を起さなかったホステス)問題の2人は不在。
どうしてまだ来ていないのかと聞くと、二人はアルバイトなのだそうだ。
昨日たんまりと日本人からお金を騙し取ったから豪華な一日を過して休みを取ったのだろう。
翌日、再度の殴りこみ。
問題の2人のホステスは既に出勤していた。
どうしてお金を払ったのにまた帰り際に1万円を要求するのか?
私達はそんなお金は貰っていません。
一人は500バーツ、一人は1500バーツのチップを貰ったと言い張る。
どちらが正しいのか、勇んで殴り込みをかけたのに出鼻を挫かれる。
ではどうして午前1時に帰ったのか?
決まりではオールナイトではないのか?
お客さんが帰って良いと言ったから帰ったのよ!
これでは喧嘩にならない。
最終的にはこれは店に下駄を預けるしか方法はないなと思い、ママを呼んで日本の私の友人はこう言っている。決して嘘をつく人ではない。
こんな悪い噂がたてば二輪草にはお客が来なくなるよ。
どうするのか? ママがホステスと話し合って結論を出してくれ。
二日後、ママから電話が入った。
店がお客から貰ったお金を返します。
おお、立派じゃん。
明日午後8時に取りに来て下さい。
はい了解。ここまでは良かった。
さて問題は更にこれから起こる。
店にお金を取りに行く。
問題の2人のホステスが入り口のドアーの前に椅子をおいて座っている。
私が来るとひとりのホステスが携帯電話を取り出しどこかに電話している。
ちょっといやな感じがする。
でもお金を返してくれるんだから貰わないと日本の先輩にも申し訳がないし、また私の株も上がらない。
店に入るとママが待っていてすんなりと女性の夜の料金を返してくれた。
しめしめ、用が済んだら速やかに帰るべし。
と店を出たとたん目つきの悪いタイ人の男が私に何か話しかけてくる。
お前は誰だ。仕事は何だ!
俺の女に何をした!
全てを無視して一目散に車に乗ろうとした時、ドアーを掴まれ車を発車できない。
すばやくエンジンをスタートさせる。
一発でエンジンがかかった。
男は今度は左の手で私の肩を掴んだ。
左で肩を掴んだので右手の手が手薄になったのを見て私はドアーが空いているまま走り出した。
男がドアーを掴んだまま放さなければ、その男をひきずることになって電柱にでも激突しそうだったが男は車が走り出すと意外に簡単に引き下がった。
おお、危なかった。
私も齢が60歳、いかに若いときに武道に親しんだとしても30歳そこそこのタイ人相手ではどうなったことだろうかと冷や汗をかく。
それにしてもこんなのはやりたくない。
危ない思いをして、バカな日本人をお守をしてやって、それに美味くも無い酒を飲んで高い金を払う。
もうこんな友人は二度と来て欲しくない。
来ても私に電話をかけてくるのはやめてよ! |